ひさです。
売却の相談でいちばん多い一言は、これです。
え、そんな値段にしかならないんですか
買った金額と、いま売れる金額が違う。この差をどう受け止めるかで、売るか持つかの判断は変わります。今日は裁判所がこの差について何と書いたかを読みます。相場の話ではなく、判決文の話です。
判決に、こう書いてある
東京地方裁判所、平成24年(2012年)3月27日の判決です。ワンルーム2室を勧められて買った人が、契約の取消しを求めました。裁判所は、請求を認めました。
判決の中に、次の一文があります。
購入後中古マンション扱いとなるため、売却価格は分譲価格の6ないし7割となるところ、そのような説明をされておらず、いつでもローンの残債が処理できる価格で売却できると誤信したものと認める
この数字の読み方を、先に決めておきます
「6ないし7割」は、この1件の判決の中の記述です。すべての部屋がそうなるという相場ではありません。分譲された新築を買った人の話で、中古で買った人には当てはまりません。
私がこの判決を持ち出すのは、数字を配るためではありません。この幅を説明しなかったことが、契約を取り消す理由になったという事実を見てもらうためです。
書面に書いてあったことと、判決に書かれたこと
この人が見せられた「将来売却プラン」は、価格の下落が10%程度が最大限であるかのように示されていました。判決は、20%以上の下落については何ら記載されておらず、投資の危険性を説明した形跡は見当たらないと書いています。
同じ時期に渡された書面は、30年以上も同じ家賃を前提にしていました。
30年間、同じ家賃。ここだけでも私は止めます。家賃は、入居者が入れ替わるたびに決め直されるものです。30年ならざっと10回は入れ替わる。同じ額で回り続ける前提の紙は、それだけで現実と離れています。
価格そのものも、ずれていた
物件1は「通常3,130万円だが、会社に無理を言って2,840万円で押さえている」と言われて買ったもの。物件2は「NTTの関連会社の借上げ物件なので空室になる心配はない」「通常2,300万円のところ特別に2,100万円」。
購入の約1か月後、買主が不動産鑑定士に評価してもらうと、物件1は1,860万円、物件2は1,460万円でした。
判決は、業者が提示した価格について、何ら根拠が示されていないこと、簡易査定や鑑定書と比べて市場の動きを加味しても合理的な変動の範囲内にあるとは到底思われないことを挙げ、市場適正価格は投資をする際の重要な事項だと述べています。
解約を申し出たときに、言われた言葉
いま解約するともったいない
買主は鑑定額を見た後、解除を申し入れています。担当者はこう言って、応じませんでした。
判決が挙げた、もうひとつの事実
裁判所は、業者が融資申込が拒否されないように、登記費用などを業者が負担することを秘すように指示したことも認定しています。そのうえで、家賃収入が減ったり入居者が見つからなかった場合に、小遣いではローンの返済ができなくなることを十分説明していなかったと述べました。
使われた条文は、消費者契約法の4条2項
宅地建物取引業法ではありません。消費者契約法です。e-Govで原文を確認しました。
- 4条1項1号:重要事項について事実と異なることを告げることで、その内容が事実だと誤認したとき
- 4条2項:重要事項について利益となる旨を告げ、かつ、不利益となる事実を告げなかったことで、その事実が存在しないと誤認したとき
この事案で認められたのは4条2項のほうです。良い面だけを説明して、都合の悪い面を伏せた、という形です。
条文は広くなった。ただし、いつ契約したかで分かれる
2012年の判決は「故意に告げなかった」と書いています。いまの条文は「故意又は重大な過失によって告げなかった」です。消費者契約法の一部を改正する法律(平成30年法律第54号)で足されました。附則第一条は「公布の日から起算して一年を経過した日から施行する」で、公布は2018年6月15日。つまり2019年6月15日からです。
🚨 そして、ここが肝心です。同じ附則の第二条は、施行前にされた消費者契約の申込み・承諾の意思表示については「なお従前の例による」と定めています。2019年6月15日より前に契約した人には、「重大な過失」は使えません。当時のまま「故意に」だったことを示す必要があります。
ワンルームを何年も持っている人ほど、契約は古いはずです。「いまは重大な過失でもいい」は、あなたの契約には当てはまらないかもしれない。まず契約書の日付を見てください。条文はe-Govで原文を確認しました(2026年9月21日)。
損害として認められた額
支払総額 5,016万5,900円 から、受取家賃などの総額 319万9,180円 を引いた 4,696万6,711円。
ここで線を引きます
この事案は2室で5,000万円を超える買い物です。金額の大きさも、伏せられた事実の中身も、この1件のものです。同じように訴えれば同じ結果になる、とは言えません。
それに、この判決が確定したかどうかは分かりません。掲載元にも書かれていませんし、事件番号が公表されていないので、私の手では追えませんでした。「確定判決で認められた」とは書かないでおきます。
それで、いま持っている人はどうするか
訴えるかどうかは、この記事の話ではありません。まず、自分の部屋の数字を出すことです。
判決が言っているのは要するに、買うときに見せられた紙と、売るときの現実がずれていたということです。そのずれは、いま手元で測れます。
測ってみて差が小さければ、それはそれで安心材料です。差が大きかったときに、はじめて次の話が出てくる。売るか、持ち続けるか、誰かに相談するか。順番はいつも、数字が先です。
数字を見てから、決めてください。
売れ、とも持て、とも私は言えます。仲介業者ではないからです。出口は3つ用意してあります。
*判決の内容は、RETIO No.87(2012年10月)p.86-87 に掲載された判例紹介を2026年9月21日にPDFで取得し、全文を読んで書いています。判決の出典はウエストロージャパン、東京地方裁判所 平成24年3月27日判決、結果は容認です。事件番号は掲載されておらず、確定したかどうかも分かりません。「売却価格は分譲価格の6ないし7割」はこの1件の判決の中の記述で、一般の相場ではありません。条文は e-Gov 法令検索で消費者契約法第4条と、平成30年法律第54号の附則第一条・第二条の原文を確認しました。個別の物件の価格は示していません。売却の査定・媒介は免許を持つ不動産会社が行います。法律の判断が必要なときは弁護士にご相談ください。*